弁護士コル先生の『ためなる』コラム ~その8~

退職代行サービスの是非


巷で退職代行サービスというものが存在します。
企業法務を取り扱っていると、たまに従業員の方が退職される際にそのようなサービスを行っている会社が「●●氏は●月●日付で一身上の都合により退職いたしました(いたします、と書いてくる場合もあります。)のでその旨通知します。」といった文書を受領した社長や人事部長等が相談にいらっしゃることがあります。

正社員の場合、当該従業員と企業は期限の定めのない雇用契約を締結していることになります。そして、労働者側からの退職の場合(会社からの解雇については、労働契約法等により、厳しく制限されています。この点については別の機会にご紹介しようと思います。)、同契約の解除の申入れ、ということになりますので、法律上は民法627条1項により同契約の解除の申入れから2週間で退職できる、ということになります(就業規則で他の定めがある場合はそちらが優先することもあります)。

この2週間というのは一般的には引継ぎ等の期間として用意されているものと考えられており、退職届を従業員の方が出されるのが通常です。

上記したような退職代行サービスの利用が増えている背景には、従業員の方が直接退職を申し出にくい、といった事情がおそらくあるのでしょう。
しかし、無断欠勤→退職代行サービスを利用して上記のように既に退職しました、という手続をとることはあまりお勧めしません。

まず、上記したような2週間という期限を定めた法律の趣旨を完全に無視してしまっています。これで、十分な引継ぎなどがなされず、万が一、会社に損害が生じたような場合会社から損害賠償を受けることすらあり得ます(損害の満額、という可能性は低いとは思いますが…)。

また、そもそも退職代行サービスの位置づけが謎なのです。
弁護士法により、法律行為に関する代理人は弁護士のみが行える業務、とされています。そのため、退職代行サービスは当然には従業員の代理ができません。
そうすると、退職の意思表示が会社に到達したとは評価されない場合があります。わざわざお金をかけて退職代行サービスに依頼したのに、最終的に無断欠勤を理由に解雇されてしまった、等ということもあり得るのです。

上記の事情からすると、弁護士としては退職代行サービスは正直お勧めできません。
会社を辞めたい、という場合であったとしても、基本的には自分の責任で辞表を提出する、あるいは、どうしても自分で直接会社と関わりたくないのであれば、弁護士に代理人を依頼するのが円満に退社するための方法といえます

 

2021年5月12日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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2 thoughts on “弁護士コル先生の『ためなる』コラム ~その8~

  1. 鈴木 より:

    現在民間企業の人事部で就業している者です。
    私の会社においても、近年退職代行サービスを利用しての退職者が増加傾向です。

    コラムに記載されている「非弁行為となる業務」については、一切会社としても認めておりませんし、退職代行会社側もその点は踏み込まず、メッセンジャー的な立ち位置で手続きを進めているようです。

    しかし中には違法性を帯びた代行会社も存在するようです。
    今以上に引き締めて対処を心掛けていこうと思う、良いきっかけとなったコラムでした。

    1. yafuoo より:

      鈴木様、コメントありがとうございました。
      退職代行サービスというものを初めて見たときは、私も驚きました。
      私自身、退職の際に会社側とこじれたとか、辞めさせて貰えなかったなどという経験はありませんが、世の中には『組織』と『個人(辞める側)』という関係だとどうしても辞めると言えない関係性になってしまっているケースは多いんだと思います。
      そういうケースで利用して、心的ストレスが少しでも軽減できるのであれば、是非とも利用したいと思われる方がおられても全然不思議ではないですよね。

      ただ、コラムで弁護士さんも書かれているように、弁護士でない方が間に入ると(もし入ることができるとするならば…ですが)、どの程度まで対応していただけるのかという確認はキッチリとしておかないと、誤解が生まれそうですね。

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