控訴に伴う執行停止~敗訴した場合のリスクヘッジ~
我々弁護士は、弁護士倫理規程を遵守して業務にあたる必要があります(これに違反してしまうと、懲戒請求をされた場合に懲戒処分が出る可能性があり、懲戒処分が出ると、官報や、「自由と正義」という弁護士会発行の雑誌に記載されるほか、インターネット上でも確認することができるようになってしまいます)。
その倫理規程では、弁護士は結果を保証してはNGとされています。つまり、「絶対勝てます。」と言い切ったりして事件を受任することはNGとされています。
訴訟は、当事者によって見える景色が違うからこそ、訴訟に発展するのであり、以前別の記事で紹介したように、訴訟で判断されるのは「真実」ではなく「事実」なので、結果を保証することはできない、というわけです。
そのため、依頼者の方が勝てる!と思って訴訟に臨んだとしても敗訴することは十分にあり得る事態です。
仮に何らかの金銭請求を受けて一審で敗訴した場合、多くの場合、判決には仮執行宣言というものがついています。これは何か、というと、通常判決は確定しなければ強制執行をすることができないのですが、確定まで待っていると、敗訴した側が財産隠しなどを行う時間的余裕ができてしまうため、勝訴した側がとりあえず、強制執行のような形で、敗訴した側の財産を押さえることができる仕組みです。敗訴した側からすると、これをやられると困る場合があります。
典型例は、会社が敗訴したような場合です。
多くの場合、会社は銀行から融資を受けています。そして、銀行からの融資にはほぼ100%の確率で期限の利益喪失約款がついています。
これは何か、というと、例えば会社の代表取締役が破産した、というようなときに(多くの場合、代表取締役が連帯保証人になっていることもあり)銀行がローンの返済を分割で行うのを認めずに、残りの借入金の一括支払いを求めることができるというものです。銀行からすれば、回収できなくなる可能性が生じたときに一刻も早く回収するための条項を入れておくのは当然でしょう。
この期限の利益喪失約款の理由の一つに差押え等が入っていることが多いのです。
そうすると、上記の仮執行宣言に基づく差押えがされてしまうと、判決が確定していないにも関わらず、会社一括でローンを返済しなければならないリスクが生じてしまいます。
この場合、どうしなければならないかというと、(敗訴判決に付いて控訴するのは勿論ですが)控訴に伴う執行停止という措置をとることができます。
この措置は判決受領後できるだけスピーディーに行う必要があり、かつ、敗訴額の8割程度の供託金を収める必要がありますが、これを裁判所に対して申立て、裁判所が決定を出すことで、仮執行宣言に基づくローンの一括返済という不利益は回避することができます。
意外と知られていない方法ですので、万が一こういった場面に遭遇した場合は弁護士に確認し、すぐに手続をされることをお勧めします。
2024年8月1日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)