刑事事件の示談について~その4~
刑事事件における示談については何度か別の記事(その1、その2、その3)で触れたことがあると思います。
そのうち、被害者側での示談についても別の記事で触れようと思っていますが、今回は暴行事件で出動し、弁護士としては「やられたなぁ…」という示談をせざるを得なかったエピソードを紹介しようと思います。
被疑者に接見に行ったところ、被疑者としてもかなり言い分のある事件のようで、色々と挑発された結果、喧嘩状態になってしまい、自分だけ逮捕された、ということのようでした。
私も現場にいたわけではないので、まずは検察官に証拠となっているであろう防犯カメラなどの証拠を見た感想を聞く旨を伝え(恐らくこの段階で防犯カメラ映像を弁護人が確認することは難しいと思います)、その他に要望がないかを聞いてみると、何としても勾留前の3日間で出たい!というのです。その理由は自身の誕生日が近いから、というものでした。
さて、ここで私はかなり悩みました。
正直なところ、被疑者の言うように本当に喧嘩状態であったのなら、先方にも相応の被疑事実がかかってしかるべきですし、安易に示談に持ち込む必要はありません。
ところが、こうなると事情は変わってきます。あくまでこちらの依頼者である、被疑者の利益を優先するのであれば先方からの被害であるとかいった事情は四の五の言わず示談することが最優先です。しかも3日間しか猶予はありません。
今回の場合、法律家としては、審議の程を確かめた上で、適正な弁護活動を行いたかったのですが、上記の事情から依頼者の利益を最優先と考え、他の事件と同様に、検察官を通じて被害者とされている先方への接触を図りました。
暴行事件であり、傷害事件ではない(恐らく被害者は出血などの被害は生じていない)ため、示談金についてもさほど高額にならないのではないか…という読みが私の中にはありました。
ところが、いざ、被害者とされる方に連絡を取ると「お金の問題じゃない」「誠心誠意謝罪をしろ」の一点張りで中々示談金の話をさせてもらえません。
本当に感情論だけで話をしているのであればまだいいのですが、こういったケースでありがちなのは、示談金を吊り上げようとしている場合です。基本的に刑事事件になっているような場合でも、民事事件の訴訟手続まで行くと、交通事故の基準+α程度の金額にしかなりません。そういった点を踏まえ、刑事事件の示談金も交渉はするのですが、タイムリミットがある関係上、そうもいっていられないのが刑事事件の示談なのです。
今回の場合、感情論を持ち出してはいましたが、いざ金額の話をするとだんだんと吊り上げてくる作戦を取られてしまいました。個人的には「経験者かな…」と思わせる方法で、最終的には暴行事件なのに50万円という金額まで上がってしまいました。
もちろん、示談成立後に検事に報告しましたが「上がったねー!」という感じで、やはり相場からは高く支払う形になってしまいました。
依頼者の第一希望を通せたという意味ではよかったですが、中々考えさせられる事件でした。
2024年7月1日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)