『ためなる』コラムその90:裁判員裁判で割れた二つの結論~推定無罪の原則とは?②~

裁判員裁判で割れた二つの結論~推定無罪の原則とは?②~


先日、以前このコラムでも取り上げた紀州のドン・ファン殺害事件について、第一審の判決があったことは皆さんの記憶に新しいところだろうと思います。結論としては、弁護側の「いくらグレーにグレーを塗っても黒にはならない」との指摘が通った形になり、須藤早紀被告人には無罪判決が言い渡されました。

もちろん、検察側は控訴するとは思いますが、裁判員の「冤罪を発生させてはいけない」という意識が無罪判決を導いたであろうことは想像に難くありません(裁判官も最低一人は賛成しているはずですが…)。

これで、判決が確定すれば被告人はドン・ファンの遺産の相続権も発生するわけですから(相続人であっても、被相続人を殺害したような場合は、相続人としての欠格事由となり、相続できないことになりますので)、この点からも、必死の裁判だったと思います(被告人は、無罪になれば少なくとも遺産の4分の1が遺留分として手に入るのでそれだけも多額のお金を得ることになります)。

この判決では、覚せい剤を本当に被告人が入手したか不明(氷砂糖という証言有り)、被告人が被害者に覚せい剤を摂取させたか否かが不明(被害者が自身で摂取した可能性を否定できない)、といった点がポイントになったと言われています。

恐らく開かれるであろう控訴審において、検察側がどういった主張・立証を組み立てるのか(恐らく新しい証拠はないと思われますので)がポイントとなり、職業裁判官のみで構成される合議体(控訴審は3人の裁判官の合議により判断されます)がどのように判断するかもポイントとなりそうです。

これに対して、長野地方裁判所はドン・ファン事件と同じく、殺人の直接証拠がない状況下で、元県議会議員の丸山大輔被告人に対し、自身の妻を殺害したとして懲役18年の実刑判決を下しています。こちらの事件は防犯カメラの映像から被告人の自動車と言えるかどうか、動機があったかどうか、第三者による殺人の可能性があるかどうか、事件前後の被告人の行動に合理的な説明ができるかどうか、が主な問題になったようです。

恐らくですが、こちらの件については、自動車について、ナンバーまでは読み取れずとも、傷の位置などから被告人の自動車という認定がなされ、その前提であれば、被告人が自宅兼酒蔵に戻った以外考えられないことから、結論として具体的な殺害方法までは不明でも有罪という認定をしたのではないかと思います。

以前説明したように刑事事件では推定無罪の原則が働きます。そして、殺人事件については、裁判員裁判で第一審は裁かれます。裁判員裁判では特にこの推定無罪の原則について裁判官から十二分の説明を受けた上で、裁判員は判断を下すことになります。そのため、直接証拠がない両事件において、間接証拠の証拠能力について、裁判員が十分に評議を行った上で、判断が割れたのでしょう。

両事件とも控訴審に進むことになると思われますが、控訴審の判断にも着目したい事件です。

 

2024年12月29日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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