『ためなる』コラムその43:王将前社長射殺事件犯人逮捕についての雑感

王将前社長射殺事件犯人逮捕についての雑感


2022年10月28日、警察は9年前に王将フードサービスの大東前社長が2013年に何者かに本社社屋前で射殺された事件について、暴力団組員の男を逮捕したと発表しました。

9年前の事件、かつ、確か当時の報道でも遺留品などが存在しない事件だったのではないかと記憶していますが、報道によればタバコの吸い殻と被疑者のDNAが一致したことや、燃焼実験の結果、そのタバコの吸い殻が外部から持ち込まれたものではなく、その現場で吸われたうえで燃えたものであることが確認されたことが逮捕の決め手になったといったことのようです。

もちろん、9年間の執念の捜査には頭の下がる思いです。
私が今回この事件を取り上げようと思ったのは、報道内容だけだと公判維持ができるのか疑問に思ったからです。

刑事裁判においては「推定無罪の原則」という原則があります。
例えば、逮捕されて連行されているような映像や、実際に手錠・腰縄をかけられて法廷に被疑者が登場する場面等を目の当たりにすると、一般の方は「この被疑者は悪い奴なんだ」といった先入観を抱きがちです(やむを得ないことではあると思いますが…)。
しかし刑事裁判手続を経て有罪判決が下されるまではその被疑者は無罪として扱い、検察において十分な立証ができた場合にのみ裁判所が有罪判決を下す、その際に、被疑者に対して先入観を持ってはならない、というのが推定無罪の原則ということになります。検察側の立証が不十分な場合に冤罪を生み出さないための原則です。

さて、今回の報道だと
● タバコの吸い殻が現場に落ちていたこと
● 当該タバコの吸い殻と被疑者のDNAが一致したこと
● 燃焼実験の結果、当該タバコの吸い殻は外部から持ち込まれたものではないこと
が明らかになっているようです。

つまり、雨が降り出してから被疑者が現場にいたことについては、十分立証できるのではないかと思います。
今回の被疑者は報道によれば黙秘している、とのことですが、黙秘や否認事件では、検察の立証もより慎重になされる必要があります。
その場にいた≠犯人
という構造を考えると、本当に起訴まで持っていけるのだろうか、というのが弁護士としての疑問なのです。

極端な話、私が被疑者の弁護人であれば、検察の立証不十分を指摘し、無罪主張をするのではないかと思います。
ただし、この雑感はあくまで、報道ベースの情報のみを基に考えたことですし、実際に9年間の間捜査の上、逮捕まで至っているのですから、おそらくはそれ以外にも数多くの証拠があるのだろうとは思いますが…。

今後、起訴されるのかどうか、そして起訴された場合には検察側の証拠構造を注目したい事件です。

 

2022年11月2日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

※ ご利用にあたって
当サイトでご提供する全コンテンツのご利用は、当サイト内(オンライン上(https://www.lawdoku.com/から始まるURL上))にのみに限らせていただきます。また、当サイト内のすべてのコンテンツにつきまして、ダウンロードやその他の方法による当サイト外への持ち出しは、理由のいかんを問わず固くお断りいたします。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA