転職時の差入れ書類には注意!従業員が競業避止義務を課される場合とは
一般論として、日本国民には職業選択の自由が憲法で保障されています(憲法22条)。そのため、誰でも自由に好きな職業に従事することが可能なのが原則です。しかし、一定の場合には、これが制限されることもありえます(取締役は通常の従業員とは立場が異なるので、ここでは省略します)。
今回のご相談者の方は美容師さんでした(実は業界的にかなりグレーな部分が多い業界です…)。
相談内容としては、今勤務している美容院から独立したいが、「●●市から半径●km以内で2年間、美容師としての業務に従事しない」という誓約書へのサインを求められているが、そもそもサインをしないといけないのか、サインしたとしてその効力は有効なのか、というご相談でした。
まず、上記のとおり、日本国民には憲法により職業選択の自由が認められています。
そのため、その自由を制約するような内容の誓約書にサインする必要はありません。今回の相談者の方の最初の質問に対する回答はそういった回答になります。
もっとも、経営者の方と揉めたくない(=円満に独立したい)といった想いからこういった誓約書にサインをしてしまう場合も大いにあり得ます。
これが例えば「日本国内において美容師業務を2年間行ってはならない」だったとしたらどうでしょう?国家資格である美容師の業務に従事できないというのは、何のために資格を取ったのか分からなくなり、職業選択の自由を過度に制約するものとして無効、という判断になるでしょう。
では、「関東地方で美容師業務を2年間行ってはならない」だったとしたらどうでしょうか。
これもこれまでの判例の考え方からすると、恐らく過度な職業選択の自由の制約となり、無効になる可能性が高いと思います。
実務家としての私の感覚では、「東京23区内で2年間」程度のラインであれば、無効とはならないのではないかと思います。当然ですが、制約する範囲が広くなる場合は、期間は反比例して短くなければならないと思います。
上記の通り、そもそも、競業避止の誓約書にサインをしなければならない法的な根拠はありません(退職できないということもありません)。
もっとも、サインしてしまったような場合には、上記の基準を参考に当該規制が有効となるかを検討すると良いでしょう。
また、誓約書を作成しなかったとしても何かしらの営業秘密等の持ち出し、と判断されてしまえば、不正競争防止法の損害賠償の対象となる可能性もあります。
顧客情報だけでは中々難しいとは思いますが、退職したり、独立する際には注意が必要です。
これから退職・独立する場合には、そもそも、誓約書を提出する必要がない、ということは頭に入れておくとよいでしょう。
2024年5月7日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)