法的根拠があるかないか~その7~
先日、ジャニーズ事務所が記者会見を行い、故ジャニー喜多川氏による性加害の事実を認め、謝罪するという記者会見がありました。
今回の件は、今年の4月にBBCがドキュメンタリー番組を作成し、実際に被害者となった元ジャニーズJr.の方が会見を行ったりして火が付き、現在は被害者の会が立ち上げられるまでに至っています。
被害者の会は当初、事務所に対して、性加害の事実を認め、謝罪するよう要求し、現在は救済(実際のところは金銭の支払しかないと思いますが…)を求めています。
もちろん、特に未成年に対する権力を振りかざした性加害は許されるものではありません。コンプライアンスの観点から、大手各社がジャニーズタレントのCM起用等を見送るのも理解できます。
また、被害者の方の心情として、謝罪を求め、金銭的な補償を求めるのも理解できますし、道義的には正しいと思います。
ただ、ジャニーズ事務所が法を超えて救済するという姿勢を見せていることはもう少し評価されてもいいのではないかな…と一法律家としては思うのです。
どういうことかというと、今回の加害者とされているジャニー喜多川氏が亡くなったのは2019年7月です。
今回、被害者の会の方がジャニーズ事務所又はジャニー喜多川氏の相続人に対して法的に損害賠償を求めるとすると、民法上不法行為(民法709条)になると思います。
今回の場合、性加害があったのは民法が改正される2020年4月1日より前であることは明らかなので、旧民法の規定が適用されます。
旧民法の724条には
「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」
と規定されています。
時効は権利の上に眠る者を保護しないという趣旨を規定していると解されています。
今回の場合、被害者の会の方々は当然、加害者を知っているわけで、まさにこの制度趣旨に該当しますので、本来であれば被害者の方が道義的に謝罪や補償を求めることができるとしても、金銭請求には法的根拠がない、と言わざるを得ないのです(語弊を恐れずに言えば、何故、ジャニー喜多川氏の生前にこういった問題提起や訴訟提起をしなかったのか、ということになります。もちろん、事情はおありだったのではないかとは思いますが…)。
つまり、今回ジャニーズ事務所が性加害の時期にかかわらず、被害者窓口を設置の上、補償について対応するというのは超法規的な措置なんです。
もちろん、企業イメージの回復、コンプライアンスの観点という意味もあると思います。
しかし、個人的には、法的義務が無いのに対応すると示している点はもっと評価されてもいいのではないか…と思うのです。
2023年9月21日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)