『ためなる』コラムその69:法的根拠があるかないか~その8・私人逮捕の可否~

法的根拠があるかないか~その8・私人逮捕の可否~


先日から2人連続で私人逮捕系YouTuberを名乗る人々が逮捕されました。
それぞれチケットの違法転売として個人を晒したり、覚せい剤を買うふりをして、その場に警察を呼び、逮捕される部分までの動画を撮影し、YouTubeにアップしていた…ということで、名誉棄損罪であったり、覚せい剤取締法違反の幇助犯ということのようです。

単に再生回数を稼ぐために過激な動画を撮りたかったのだろうとは思いますが、そもそも、私人による逮捕はかなり限定的な場合にしか認められません。なぜなら、逮捕は私人にとって身体拘束を伴う重大な人権侵害である以上、以下の場合にしかそもそも認められていないからです。ここで意識しなければならないのは、犯罪者であったとしても人権は保障されている、ということになります。

刑事訴訟法上、逮捕は3つの種類に分けられます。
① 通常逮捕:逮捕状に基づきなされる逮捕です。私人で行うことはできません。
② 緊急逮捕:一定の犯罪(死刑・無期懲役または長期3年以上の懲役が定められている罪)について、その嫌疑が充分であり、かつ、緊急性が認められる場合にのみ、捜査機関が行えるものです。これも私人で行うことはできません。
③ 現行犯逮捕:現に罪を行い、又は罪を行い終わった者を何人も令状なくして逮捕できる(刑訴法213条)として例外的に認められるものです。

私人でできるのは③の『現行犯逮捕』ということになります。現行犯について、例外的に逮捕状がなく、私人にも認められるのは、簡単に言えば、逮捕者が犯罪または犯罪の終了を現認していることから、犯人を間違えようがなく、誤認逮捕の恐れがないことがその理由です。

例えば、電車内での痴漢事件は分かりやすい例ではないでしょうか。
被害者の方が加害者の腕を掴んだり、逃げ出した犯人を駅員が取り押さえたりするのはその例といえます。

上記のとおり、逮捕は被逮捕者の身体的な拘束を伴うことから、かなり例外的な状況でなければ認められません。

そうすると、今回の事件のようなYouTuberの方はその条件を充たしていないことが明らかだと思います。そのため、彼らの行為には、法的な根拠がなく、単に動画の対象となった方の名誉を棄損したり、覚せい剤を持ってこさせたということでその幇助(手伝いをした)ということになったのです。

痴漢のように明らかな犯罪であれば、現行犯逮捕自体は認められる可能性があります。もちろん、このような場合であっても、その様子を撮影し、アップロードする行為が許されるかはまた別の問題です。

正しい知識を基に、秩序ある動画の撮影・アップロードを心掛けてほしいものです

 

2023年11月30日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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