『ためなる』コラムその63:刑事事件の示談について~その3~

刑事事件の示談について~その3~


先日、当番弁護士として警察署に出動しました。
当番弁護の場合、警察署に着くまでは、被疑者の氏名と被疑事実の罪名しか知らされません。また、当番弁護で出動した場合には、基本的には被疑者が希望すれば受任する義務があります。
そのため、被疑者が弁護士を選ぶことができませんが、弁護士も被疑者(依頼者)・事件を選ぶことができません。これが民事事件との大きな違いです(法テラスで相談を受ける場合などは同じですが)。

さて、今回の被疑者の被疑事実は窃盗罪でした。万引きかな…と思って警察署に行ってみると、その通り万引きの現行犯として逮捕された被疑者でした。

ところが、被疑者の言い分によると、お金を支払うつもりだったのに、その前に逮捕されてしまった、という言い分なのです。
その言い分を前提にすると否認事件、ということになります。
もちろん、被疑者の主張を否定することは弁護人の仕事として適切ではないので、今後の弁護方針は当然のことながら否認、ということになります。

一方、頭を悩ませなければいけないのは示談です。
被疑事実を認めている場合であれば、万引きを行ったことを反省し、お店に対して謝罪する、といった文言を示談書の中に挿入することができるのですが、否認事件の場合そうはいきません。
もっとも、窃盗被疑事件を不起訴に持っていくのに、最も重要な要素は、被害弁償がなされていることです。

そのため、感情的に被害者(被害店舗)が納得しない場合でもなんとか示談金(少なくとも被害相当額)を受け取ってもらうよう、交渉する必要があります。

この場合弁護人としては苦肉の策として、「ご迷惑をおかけしたことについて謝罪したい」といった内容で交渉することになります。
ここにも一つハードルがあり、その交渉を被疑者自身が望まない場合もあるので、厄介です。

今回の場合、「盗る気はなかった。」とは言っていたものの、話をしたところ「迷惑をかけたことは間違いない」ということは言ってくれましたので、何とかその方向で被害店舗に話を持っていくことができました。

被害店舗側も事情を察してくださったのか、被疑者を許したり、被害届を取り下げる、といった内容の示談書の締結は難しいが、被害相当の金額を受け取り、領収証を発行することはできる、との回答をしてくださいました。

このような場合、弁護人は被疑者のためのベストな解決(=不起訴)を目指すうえで、板挟みになりがちです。

今回のケースでは、言い方は適切ではないかもしれませんが、物わかりの良い当時者で、私としては何とか被害弁償を済ませることができ、ほっとしました。

まだ結論は出ていませんが、何とか不起訴になるよう、意見書などの作成を今後行っていかなければなりません

 

2023年8月31日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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