民法 第715条第1項


(使用者等の責任) ※ 本条解説へ移動する
第715条第1項

 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

民法 第三編 第五章 不法行為 条文一覧




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以下、解説です。


【民法715条1項解説】

民法715条は「使用者責任」について定めた条文です。
民法709条では「不法行為に対する損害賠償請求権」について定めていますが、民法715条によって、加害者が「事業のために他人を使用する者の被用者」だった場合には、使用者もその損害を賠償する責任を負うとされています。

使用者責任が成立する根拠は、「報償責任の法理」と「危険責任の法理」によると考えられています。
報償責任の法理とは「利益を得る過程で第三者に損害を与えた場合は、その利益から損害を補償すべき」という考え方で、危険責任の法理は「利益を得る過程で危険を生み出す場合、危険な行為が原因で第三者に損害を与えた場合は、その賠償責任を負うべき」という考え方です。

「事業のために他人を使用する」と言われると雇用関係が思い浮かぶと思いますが、使用者責任に該当するのはそれだけではありません。下記の4要件を満たす場合に使用者責任が認められるとされています。

①被用者の不法行為があった。
民法709条に定める不法行為の要件を満たしていることが必要です

②使用者と被用者の間に「使用関係」がある。
直接雇用契約をしている場合は当然ですが、そうでなくても、使用者が「被用者を実質的に指揮監督している」という状態であれば、業務委託や下請企業などであっても使用関係に該当します。
また、行われている事業が継続的なものかどうか、営利か非営利かといった内容は問われません。

③被用者の不法行為が「事業と関連して」行われた。
被用者が使用者から指示された業務内容だけが対象になるわけではなく、広く解釈されています。事業のために職務範囲内で行われた内容かどうかではなく、事業のために行われたものと信じられるだけの外観があるかどうかで判断されます。
これは被害者側を保護するための考え方で、「外観理論(外形標準説)」と呼ばれています。

④使用者の免責事由に該当しない。
民法715条の条文には但書があり、使用者の監督に過失がない場合や監督過失と損害との間に因果関係がない場合は免責されると定めています。しかし、過去の判例などを見ると、この但書によって使用者側が免責となった事例はほとんどありません。

以上のような基準で使用者責任に該当するかどうかが判断されますが、過去の事例では、次のようなケースで使用者責任があるとされました。

・社用車を会社の許可なく、プライベートの目的で使用し、交通事故を起こした。
・終業後の強制参加ではない飲み会で、上司が仕事の話を絡めてセクハラをした。
・業務を遂行する過程で、従業員が別の従業員に暴行を働いた。
・業務委託先の従業員の不注意で生じた交通事故について、委託会社の使用者責任が認められた。

このように、使用関係や外観理論により、かなり広い範囲で使用者責任が認められると言えるでしょう。

 

2023年8月29日 ご執筆M様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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