民法 第1028条第1項


(配偶者居住権) ※ 本条解説へ移動する
第1028条第1項

 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

民法 第五編 第八章 配偶者の居住の権利 条文一覧




※ ご利用にあたって
当サイトでご提供する全コンテンツのご利用は、当サイト内(オンライン上(https://www.lawdoku.com/から始まるURL上))にのみに限らせていただきます。また、当サイト内のすべてのコンテンツにつきまして、ダウンロードやその他の方法による当サイト外への持ち出しは、理由のいかんを問わず固くお断りいたします。

以下、解説です。


【民法1028条1項解説】

1.制定の趣旨
本条は、平成30年の民法改正で新設された規定です。日本では平均寿命の伸長と出生率の低下による高齢化社会が進んでいます。そのため、被相続人の配偶者が被相続人の死亡後も長期間にわたって自身の生活を維持継続しなければならないケースが増えています。
こうしたケースにおいて、残された配偶者としては、被相続人の生前から住み慣れた住居での居住権を確保するだけでなく、生活を維持するための資金も確保したいと考えるのが自然です。
民法の改正前に配偶者が居住権を確保するには、遺産分割で住居の所有権を確保するか、住居の所有者との間で賃貸借契約を締結する必要がありました。しかし、遺産分割による場合には住居の評価額が高くなるために生活資金を確保するのが困難になるという問題があり、賃貸借契約については所有者が契約に応じてくれないリスクがありました。
そこで、平成30年の民法改正では、こうした問題に対応すべく配偶者居住権の規定を新設したのです。配偶者居住権には、居住建物の処分権限は認められないため、住居の所有権を取得するよりは低い評価額で居住権を確保できます。

2.配偶者居住権の有無による遺産分割方法の違い
たとえば、被相続人の遺産が2000万円の建物と2000万円の預貯金のみで、相続人が配偶者と子1人の場合、配偶者が建物の所有権を取得すると、子が全ての預貯金を取得することになり、配偶者は生活資金を確保できなくなってしまいます。
ここで、配偶者居住権の価値を1000万円、配偶者居住権の負担付きの建物を1000万円とすると、配偶者が配偶者居住権と預貯金1000万円、子が負担付きの建物の所有権と預貯金1000万円という分割が可能となるのです。

3.配偶者居住権の特徴
配偶者居住権は、配偶者の居住権を確保するために特に設けられた権利で、配偶者の一身専属権です。そのため、配偶者居住権は譲渡できず、相続の対象にもなりません。
配偶者居住権の効力は居住建物の全部に及ぶもので、建物の一部のみの配偶者居住権は認められません。配偶者は、配偶者居住権に基づいて無償で居住建物の使用収益をする権利を持ちます。

4.配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権の成立要件は、次の2つです。
①.配偶者が相続開始の時点で被相続人所有の建物に居住していたこと
②.当該建物について配偶者居住権を取得させる内容の遺産分割、遺贈もしくは死因贈与が行われたこと

居住建物は被相続人の所有でなくてはならないため貸借した建物についての配偶者居住権は認められません。また、共有建物についても配偶者居住権は認められません。

 

2023年5月12日 ご執筆T様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA