民法 第939条


(相続の放棄の効力) ※ 本条解説へ移動する
第939条

 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法 第五編 第四章 相続の承認及び放棄 条文一覧






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以下、解説です。


【民法939条解説】

1.相続の放棄の効力
939条は、相続放棄の効力について、遡及効を認めたものです。相続放棄によって遡及効が発生すると、相続人は相続開始のときに遡って相続しなかったのと同じ地位に置かれます。
民法上、遡及効が生じるものとしては、相続放棄以外でも、詐欺・脅迫による取消し、時効、遺産分割などがあります。

遡及効は第三者の取引の安全を侵害する効果があるため、遺産分割など他に遡及効が生じる法律行為については第三者保護規定が置かれています(909条ただし書など)。

しかし、相続放棄については第三者保護規定が置かれておらず、遡及効が貫徹されているのです。

2.相続放棄と登記の関係
相続放棄の効力は絶対的であり、何人に対しても、登記等の有無を問わず、その効力が生じます(最判昭和42年1月20日)。
たとえば、相続放棄をした相続人の債権者が、相続放棄の意思表示前に、当該相続人の持分について差押登記を経由していたとしても、相続放棄がされるとその登記は無効になります。
相続放棄に絶対的な効力が認められる理由としては、次の3つです。

・939条が相続放棄の遡及効を認めていること。
・相続放棄の有無は家庭裁判所で確認でき、相続放棄が可能な期間も限られているため、第三者の保護を図る必要性が小さいこと。
・相続放棄がされても、他の共同相続人間では遺産分割が終了するまでは相続財産の帰属が決まるわけではないため、相続人に登記を要求するのは酷であること。

3.権利の濫用との関係
相続放棄は、相続財産の債権者に損害を与えることを目的としていても、権利の濫用にはなりません(最判昭和42年5月30日)。

4.詐害行為取消権との関係
相続放棄は、身分行為であり、詐害行為取消権の対象にもなりません(最判昭和49年9月20日)。

5.二重資格者の問題
弟が兄の養子になり、兄が死亡したような事例では、弟は直系卑属として相続人になるとともに、兄弟としても相続人になり得ます。
このように、相続人が二重資格者である場合、先順位相続人としての相続放棄の効果が、後順位相続人としての地位に影響を与えるのかという問題があります。
この点については、二重資格者は、それぞれの立場で相続人となるため、先順位相続人としては相続を放棄し、後順位相続人としては相続を承認するという形で、各相続資格について別々に承認・放棄の自由が与えられます。
つまり、養子としての相続は放棄しつつ、弟として相続を承認することも可能です。

 

2023年1月6日 ご執筆T様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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