弁護士コル先生の『ためなる』コラム ~その13~

熱海の土砂崩れの責任の所在


2020年7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流は尊い人命を含め、甚大な被害を発生させました。
この土石流の発生原因について、実際に崩落した箇所に過去に盛土がなされ、その盛土部分が流出しているとの報道があります。
今回、その責任の所在が非常にややこしくなりそうです。というのも、盛土をしたのは当該土地の現在の所有者ではなく、前の所有者であり、現在の所有者は当該土地について盛土だという認識がなかったとのコメントを出しています。

民法717条1項は土地工作物責任が定められており、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。
今回の盛土は土地の工作物に該当する可能性は高いと言えそうですから、現在の土地の所有者は少なくとも被害者に対して無過失責任を負うことになります。
もっとも、717条3項は土地工作物責任が生じる場合において「損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。」と規定しています。
かみ砕いていえば、一時的に所有者・占有者が責任を負うとしても、他に責任追及できるときは所有者・占有者はその責任を負う者に損害賠償請求できますよ、という規定です。

先程ご紹介した現在の所有者のコメントは明らかに前所有者に対して、この請求をすることを意図しているといえ、仮に被害者・ご遺族の方が現在の所有者を提訴しても、例えば前所有者に対し訴訟告知などを行い、責任の擦り付け合いがされるであろうことは容易に想像がつきます。さらに言えば、前所有者は県や市からの指導もなく、盛土の造成について瑕疵がなかった旨を争うと考えられるので、訴訟になれば長期化してしまいそうな気配です。

また、県や市の指導が不適切として国家賠償請求を行うことも考えられますが、これについては、県や市の指導の履歴などから適切な指導がなされていない旨を被害者側が証明する必要がありますので、そのハードルは所有者らに対する者よりかなり厳しいものになるといえそうです。

人災の側面がありそうな今回の災害、一刻も早い復興、及び被害回復が望まれるところではありますが、その責任の所在について、それぞれの主張が種々なされることが予想され、被害者の方、ご遺族の方への金銭的補償がなされるまでにはかなり時間を要しそうです。

原因の究明、責任の所在が早期に明らかになることを望みます。

 

2021年7月27日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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