『ためなる』コラムその44:被告が相続放棄!?

被告が相続放棄!?


以前、別の記事で相続放棄について申述期間が限られていること、また、弁護士に依頼することで申述期間の延長が認められやすくなることについて触れたと思います。

相続放棄そのものについては当該記事で触れた通りなのですが、今回はちょっと角度の違う事案について説明したいと思います。

ある事業者の方から、請負代金を依頼者から受け取っていない、とのことで相談を受けました。
もっとも、弊所にご相談をいただいたタイミングで、既に工事の引渡しから3年経過の一週間前となっており、時効の成立が間近でした(このことからも弁護士への相談に関してはできるだけ早いタイミングでのご相談をお勧めします。弁護士として「対応できない」という返事をする弁護士はいないと思いますが、特急料金になると金額が大きくなってしまう可能性が高いです)。

さて、この件の依頼者の相手方(=請負代金が未払になっている人)は個人の方でした。
通常、個人の方を被告に提訴(時効の関係で、本件については交渉をしていると時効になってしまうので、いきなり提訴ということでやむを得ませんでした)する際には、住民票を先に取得し、そこに本人が住んでいることを確認した上で提訴するのですが、本件についてはそのような時間がなかったため提訴せざるを得ませんでした。

提訴後に住民票が届いたのですが、そこで衝撃の事実に対面することになります。
なんと被告が提訴のタイミングで死亡していたのです。

被告が死亡していると、被告適格が当該被告にないということになりますので、そこから相続人調査を行い、相続人(妻と子供)を被告として訴状を訂正することになりました。

これで無事に訴訟が始まる…と思ったのですが、この事件はここからまた一波乱あり、なんと調査をした相続人全員が相続放棄をしていたことが、提出された答弁書と証拠からわかりました。

この場合、被告適格がある人物が誰もいないということになりますので、このままだと訴えは却下ということにならざるを得ません。

原告訴訟代理人としては依頼者に対して非常に心苦しい立場とはなりましたが(本音を言えばもう少し早く調査の上、交渉していればもっと早く分かった事実なのに…という想いはありますが笑)、ここで最善の策を考えるとすると、(今までこのような経験はしたことはありませんでいたが)第1回期日の前の訴えの取下げを試みるということになります。

もちろん、このままだと請求は却下なので、原告には1円も入りません。
(これは残念ながら確定しています。)

しかし、訴えの取下げを第1回期日前に行うことができると、裁判所に提訴の際に収めた印紙の半額が返ってくるという仕組みになっています。
微々たる金額ではありましたが、依頼者にはお礼を言ってもらい、ちょっとは安心した事件でした。

 

2022年11月15日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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