『ためなる』コラムその49:詐欺の故意の立証は難しい~民事訴訟の使い方~

詐欺の故意の立証は難しい~民事訴訟の使い方~


先日、歯科矯正治療のモニターになれば、実質的に無料で治療を受けられるという謳い文句により、患者が契約したはいいものの、実際にはクレジットカードの分割払いを余儀なくされた…等として、150人以上の患者が、その医院を総額2億円弱で集団訴訟を提起した、というニュースが流れました。

“実質無料”で勧誘 歯科矯正の治療費めぐり集団提訴 全国1400人以上が被害か(TBS NEWS DIG Powered by JNN) – Yahoo!ニュース
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弁護士としては、「そもそもそんなおいしい話があることを疑うべきでしょう…」とも思いますが、たいていの詐欺事件はそういった類のものであることもまた事実です。

さて、この記事の中で今回着目したいのは「刑事告訴も検討している」という部分です。
被害者の立場からすれば、お金の回収が第一、ということになるとは思いますので、民事訴訟の提起は当然としても、刑事告訴をしないのはなぜなのか、という疑問が生じます。

詐欺罪(刑法246条)が成立するためには、被告人に欺罔行為が存在していなければなりません。

ここでいう欺罔行為とは当該行為(今回の件で言えばモニターをしてくれれば、実質的に無料で歯科矯正治療を受けられる、という言い方で勧誘を行った行為が対象ということになるでしょう)について、被告人に、他人を騙す意思(欺罔意思)が存在することが必要になり、検察官はこれを立証しなければなりません。

この「騙す」という点が曲者なのです。

報道によると、今回の件で言えば、しばらくは最初の誘い文句の通り、報酬が支払われていたが、途中で支払いが停止した、という報道がなされています。
そうすると、仮に刑事告訴⇒逮捕に至ったとしても、今回で被告人になるであろう当該企業の経営者は、「実際に支払いをしていこうと思ったけれども、途中で首が回らなくなってしまった。申し訳ない」といった弁解を行うことが容易に想定できます。

これを覆して最初から騙すつもりだった、というのを立証するのが難しいのです。

これに対して民事訴訟であれば、民法709条の不法行為で訴えることになると思われますが、騙す意思までは必要なく、当該行為に「故意又は過失」があればOKということになり、民事訴訟での立証については、当該勧誘行為を故意でやっていたこと、で済むので立証も十分可能です。

ここからは私の想像になりますが、民事訴訟で損害賠償を請求し、訴状の中で被告の行為を詐欺と主張します。
そして、判決で詐欺行為と認定されれば、刑事告訴の際に、その判決を証拠として一緒に提出することで欺罔意思の一つの判断要素とすることができるのではないでしょうか。
そのために、刑事告訴も検討する、という現段階では刑事告訴は行っていないという判断になるのではないかと思います。
民事訴訟の判決の使い方の一つ、ということができるでしょう。この件は、実際に刑事告訴するのか、するとしたらどういったタイミングなのかを追っていきたいと思います

 

2023年2月1日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)

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