法的根拠があるかないか~その3~
先日ご相談にいらっしゃった方のお話です。
その方はアパートの経営をされているのですが、「賃借人の方ともう関わりたくない」ということで、「契約更新の拒絶→建物からの退去を要求したい」とのご相談内容でした。
こういったご相談の場合、弁護士としては、賃貸借契約の解除相当の信頼関係の破壊が貸主・借主間に存在するか、を気にすることになります。
分かりやすい例でいえば、賃料の滞納が分かりやすいのですが、判例上、賃料の滞納が一か月あったからといって、当然に追い出せるか、というと(何回も繰り返していたり、他にも理由があれば別ですが)基本的にはそんなことはありません。
一般的には5~6か月程度の家賃の滞納が必要とされています。
何故、借主側が保護されているかというと、賃貸借契約により借主は生活や仕事の根拠となる不動産を借りており、これを安易に取り上げてしまうと、借主の社会的な生活が成り立たなくなるからです。ある意味不動産所有者とのパワーバランスを法律が是正していることになります。
ところで、今回の相談者の方は賃借人が相談者の方にあれこれ注文を付けて電話をしてくるのに参ってしまったので何とか退去させたい、という内容でした。
ご本人の心労はその表情からしてもかなりの負担になっているのではないか、とは思いましたが、お話を聞く限りその頻度・回数からして、さすがに上記の信頼関係の破壊とまではいえないのではないか、というのが感想でした。
となると、受任する場合、建前上強気の書面を作成するとしても、実際のところ、退去させる法的根拠は薄いことになりますので、交渉のスタンスが大きく変わってきます。
具体的には、フリーレント期間を設けたり、場合によってはいくらかの立退料を支払う形の交渉になる、というわけです。
弁護士としては、ご相談者の方にはしっかりとその旨をお伝えした上で受任する必要があります。
また、弁護士報酬についても、たとえ立退料が発生したとしても退去が実現するのであれば報酬金が発生することもしっかりとお伝えしないとトラブルのもとです。
今回の相談者の方の場合は、それでも自分が窓口になりたくない、弁護士費用が掛かっても、場合によっては立退料が発生しても退去させたいというご意向でしたので受任することになりました。
交渉としては、書面(内容証明郵便)で強気のことを送った上で実際に連絡を貰った際には希望条件を聞き出し、合意書を作成する、という作戦を取りました。
今回の場合、借主の方が弁護士に相談されることもなく、引越先が見つかるまでのフリーレントと引越費用をこちら負担ということで解決することができました。
法的根拠があるかないかはしっかりと弁護士に確認する必要がありますし、依頼する場合には、しっかりと説明を受けてから依頼されるようにしてください。
2022年9月28日 ご執筆c様
(※ 掲載内容は、執筆当時の情報をもとにしております)