(遺言の方式) 【※ 本条解説へ移動する】
第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
民法 第五編 第七章 遺言 条文一覧
以下、解説です。
【民法960条解説】
1.趣旨
遺言は、遺言者の死後に効力を生じるものです。そのため、効力が発生するタイミングでは遺言者の意思を確認できません。そこで、遺言者の真意を明確にすること、遺言書の偽造・変造を防止することを目的として、遺言書は厳格な要式行為とされています。
遺言書が厳格な要式行為であることの意味としては、法律に定める形式に従わない遺言書は無効となることを意味します。
2.遺言とは
遺言は、一定の方式で示された個人の意思に、その者の死後に、それに即した法的効果を与える法技術です。
亡くなってしまった人は、法律行為を行うことはできませんが、一定の方式に従って意思を残しておくことで、死後にその意思に従った法律効果が認められます。
個人は死後の自分の財産の行方について、その意思で自由に決めることができます。これが遺言自由の原則です。遺言制度の下では、遺言者の最終的な意思を尊重して、一定の事項につき、遺言者の死後の法律関係が遺言で定められたとおりに実現することが法的に保障されます。
3.遺言書の性質
本条は、遺言書が要式行為であることを規定しています。遺言書は、要式行為であることに加えて、以下のような性質を有しています。
遺言書は、相手方のない単独行為です。この点で、死後に財産を贈与する死因贈与とは異なります。遺言書は単独行為なので、受贈者の承諾なしに効力が発生しますが、死因贈与は契約のため、受贈者の承諾が必要です。
遺言は本人の『独立の意思』に基づかなければならないとされており、制限行為能力制度の適用は排除され、代理も許されません。これも、遺言の制度が遺言者の最終的な意思を尊重する制度であるとの考えに基づくものです。
遺言が遺言者の最終的な意思を尊重するものであるという点では、遺言者は、いつでも遺言を撤回できます。また、より新しい日付の遺言書が存在する場合には、古い遺言書は新しい遺言書と矛盾する範囲において効力を失います。
遺言は死後行為とされており、受遺者は、遺言者の生存中には遺言に関して何らの権利も持ちません。
4.遺言によってのみ行える行為
民法では、遺言によってのみ行える行為を定めています。具体的には、次の事項です。
● 後見人・後見監督人の指定(839条、848条)
● 相続分の指定(902条)
● 遺産分割方法の指定(908条)
● 遺産分割の禁止(908条)
● 相続人相互の担保責任の指定(914条)
● 遺贈(964条)
● 遺言執行者の指定(1006条)
● 遺留分侵害額の負担の指定(1047条)
2023年3月12日 ご執筆T様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)