(遺言の効力の発生時期) 【※ 本条解説へ移動する】
第985条第1項
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
民法 第五編 第七章 遺言 条文一覧
以下、解説です。
【民法985条1項解説】
1.985条は、遺言の効力について定めた規定です。985条から「第3節 遺言の効力」とされていますが、986条以降は遺贈に関する規定で、遺言の効力についての規定は985条のみとなっています。
2.遺言の効力
(1)遺言は、遺言者が死亡した時に効力が発生します。
遺贈は遺言者の生前には何ら法律関係を発生させることはなく、受遺者は将来遺贈の目的物である権利を取得する期待権を持つこともありません(最判昭和31年10月4日)。
遺言も法律行為であるため、遺言には民法総則が適用されます。
意思無能力者のした遺言は無効原因です(3条の2)。
また、公序良俗、強行法規違反は無効原因となり得るもので(90、91条)、錯誤、詐欺、強迫は取り消し得るものとなります(95条1項、96条)。ただし、心裡留保については常に有効で93条は適用されないと考えるのが通説です。
さらに、制限行為能力の規定については民法総則の規定は適用されません(962条)。
民法総則と異なる点としては、満15歳に達した者は遺言能力を有する(961条)、成年被後見人であっても医師2人以上の立ち合いがあれば自ら遺言できる(973、982条)、被保佐人も保佐人の同意なしに遺言できるといった点が挙げられます。
(2)遺言には特有の無効原因も存在します。遺言の方式に違反があると無効です(960、967条以下)。また、共同遺言は禁止されており、2人以上の者が同一の証書で遺言した場合には無効となります(975条)。
遺贈の場合、遺言者の死亡前に受遺者が死亡していた場合や遺贈の目的物が存在していなかった場合には原則として無効となります。
(3)遺言は遺言者が自由に撤回できます。これは、遺言における遺言者の意思を尊重したもので、遺言に特有のものと言えます。
3.遺言の解釈
(1)遺言の解釈については、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきであるとされています(最判昭和58年3月18日)。遺言は遺言者が遺した最終的な意思表示であり、 遺言は可能な限り遺言者の意思に沿う形で実現されるべきと言えるためです。
(2)遺言者自らが具体的な受遺者を指定せず、その選定を遺言執行者に委託する旨の遺言は、遺産の利用目的が公益目的に限定されている上、被選定者の範囲が国・地方公共団体等に限定されているものと解されるときは、遺言者の意思と離れることなく、有効です(最判平成5年1月19日)。
この判例についても、遺言は可能な限り有効となるよう解釈すべきとの判断に基づくものと言えるでしょう。
2023年4月20日 ご執筆T様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)