(所有権の取得時効) 【※ 本条解説へ移動する】
第162条第1項
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
民法 第一編 第七章 時効 条文一覧
以下、解説です。
【民法162条1項解説】
取得時効の趣旨は、一定期間占有が継続した場合に、その事実状態を尊重すること、権利を行使することができるにもかかわらず権利を行使しない「権利の上に眠る」者については保護する必要がないことにあります。そこで、取得時効によって所有権を取得するには次の要件が必要となります。
【要件】
①一定期間占有が継続すること
占有が途切れることなく、一定期間継続することが必要です。もっとも、占有の開始と一定期間後の両時点での占有を証明できれば、その間は占有を継続したものと推定されます(民法186条2項)。
また、占有を承継した場合、例えば、不動産の譲渡を受けて占有するような場合、前の占有者の占有期間を継続することもできますし、しないこともできます(民法187条1項)。
②所有の意思をもって占有すること
「所有の意思」とは、自分の所有物であるという意思をもって占有(自主占有)する必要があるということです。占有開始時から、他人の物である認識で占有している場合には、何年経過しても時効が完成することはありません。例えば、賃貸借によって開始された占有は、他人の所有物である認識をもって占有を開始しているため、他主占有となり何年経過しても取得時効は完成しません。
もっとも、自主占有かどうかは、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものとされています。占有している者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定されます(民法186条1項)ので、時効の成立を争う者が、その占有の性質を証明していくこととなります。
③平穏かつ公然と占有すること
平穏かつ公然とは、暴力などによらず、自然な状態で占有を開始することです。
④占有開始時に善意無過失であること
取得時効では、占有開始時に善意または無過失か、それともそれ以外かで時効が完成するまでの期間が異なります。
「占有開始時」に自己に所有権があることについて善意または無過失であれば、民法162条2項により、10年での占有期間で時効が完成します。一方、そうではない場合には、20年の占有が必要となります。
「占有開始時」に善意または無過失であれば足り、時効完成までの期間の中で、自己に所有権がないことに気づいたとしても、占有状態が継続すれば10年で時効が完成します。
⑤時効援用の意思表示をすること
2022年7月3日 ご執筆U様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)