(意思表示の効力発生時期等) 【※ 本条解説へ移動する】
第97条第2項
相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
民法 第一編 第五章 法律行為 条文一覧
以下、解説です。
【民法97条2項解説】
民法では意思表示について「到達主義」を採用していますが、民法97条2項は到達主義の抜け穴に備えた規定となっています。
もし、意思表示を受け取る相手側が、わざと通知を受け取らないでいると、意思表示の通知は到達しなくなってしまいます。そこで、正当な理由がないのに通知を受け取らない行為だと判断できる場合は、その意思表示は、「通常であれば到達していたであろうタイミングで到達したもの」とみなされます。
民法97条2項の規定は、2017年の民法改正によって新たに定められたものであり、この条文に関する裁判例は少ないです。しかし、改正前であっても同じような考え方に立った判例があり、民法97条2項の解釈を想定することが可能です。
それは、平成10年に出された最高裁判所の判例です。
この事件では、遺産分割に関して送られた「遺留分減殺請求の内容証明郵便」が到達したかどうかという点についても争われました。この内容証明郵便の受取人が受け取らないまま保管期間満了となり、差出人の弁護士に返送されたのですが、これを「到達した」とみなすことができるかという議論です。
この事件の背景として、以前にも、同じ弁護士が遺産分割に関する郵便物を差し出していました。ここから、受け取ることができなかった弁護士からの内容証明郵便が、遺産分割に関する内容だと推知できたはずで、その郵便を受け取ることもさしたる労力なくできるはずだと考えられました。
その結果、この内容証明郵便は受け取られなかったものの、「社会通念上、了知可能な状態におかれ、遅くとも保管期間が満了した時点で到達したもの」と判断されたのです。
この平成10年の判例から、現在の民法97条2項についても、「内容の予想がつくのに、重要な通知をわざと受け取らずにいること」などが、「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げた」と判断されるものと考えられます。
2022年8月8日 ご執筆M様
(※ 解説内容は、執筆当時の情報をもとにしております)